「LINEギフト」ビューティーカテゴリーが急伸。3年で流通額5倍を生んだ“ギフトならでは”の仕掛けとは

2015年4月の提供開始から10年、現在は累計ユーザーが3500万人突破、年間利用者数は約2000万人(2024年2月1日~2025年1月31日までに贈った・もらった利用者数)に成長したソーシャルギフトサービス「LINEギフト」。住所や氏名を知らない相手にも贈れる利便性に加え、名入れ機能やギフト専用の特別パッケージなど若年層の需要にマッチしたことでニーズが拡大しているようだ。なかでも「ビューティー」カテゴリーの成長は顕著で、流通額は直近3年で約5倍になった。成長を牽引する具体的な施策をLINEヤフー ビューティーカテゴリー マーチャンダイジング責任者の赤木広美氏に聞いた。
住所や氏名を知らなくても“気軽”に贈れる
スマートフォンやSNSの普及と共に拡大した「ソーシャルギフト(eギフト)サービス」。オンラインで贈れるのが最大の特長で、ギフトを選んで指定のURLを相手に送るだけで、電子チケットやアイテムが相手に届く仕組みだ。住所や氏名を知らない間柄でも贈れるとして、人気を集めている。そうしたソーシャルギフトサービスのなかでも、「LINEギフトはLINEアプリのなかで使える導線が強み」だと赤木氏は話す。
ソーシャルギフトには多くのサービスが存在しますが、基本的にサイト内での会員登録が必要です。一方、LINEギフトは、LINEユーザーであれば会員登録なしで使えます。ギフトと贈る友だちを選ぶと、すぐに購入手続きに移行するスムーズな体験設計が特長です。通常のECサイトにある「カート機能」もありません。日常のコミュニケーションの延長で気軽に使ってもらえるよう工夫しました。(赤木氏)

平均単価は2000~3000円。20~30代女性が市場を牽引
LINEギフトには、「eギフト」「グルメ」「ビューティー」「酒・ドリンク」「結婚・出産祝い」などのカテゴリーがあるが、年間を通して最も流通額が多いのが「eギフト」だ。次いで「ビューティー」「スイーツ」が続く。「あれもこれも何でも選べて品ぞろえが豊富である」ことよりも、「喜ばれるギフトを厳選する」ことを重視しているという。

ギフト特化のプラットフォームとして、“迷わずに買える体験”を提供したいと考えています。カテゴリーによって出店基準は異なりますが、知名度が高く、実績のあるブランド、あるいは多くの方に喜ばれる定番品が中心です。一方で、近年人気が急上昇している新規性のあるブランドも取り入れ、トレンドを重視したい方々のニーズも満たせるようにしています。(赤木氏)
利用者のボリューム層はSNSとの親和性が高い若年層で、20代が34%、30代が23%となる。男女比は男性が38%、女性が62%。1回の平均利用額は2000~3000円だ。

コアユーザーは若年層ですが、直近では40~50代の層が拡大傾向にあります。たとえば、子どもからの贈り物を受け取ったことを機にソーシャルギフトサービスを知り、自身が送り主として利用することもあるようです。単価は関係性やシーンによって変わり、同僚であれば500円のカフェチケット、「母の日」や「父の日」、友人などの誕生日、結婚・出産祝いであれば5000円、1万円の商品など、かなり振れ幅があります。(赤木氏)
年間で最もLINEギフトが使われるのが「母の日」だ。その他に、「クリスマス」や「父の日」、「バレンタインデー」「ホワイトデー」も大きく伸びるという。
近年は、若年層を中心にオンラインでギフトを贈り合う文化が活発化しているため、通年にわたって流通額が伸びるようになっています。ただ、それでも季節ごとのイベントでは流通額が著しく上昇します。LINEギフトでは、イベントごとに特集を打ち出しており、すでに購入意欲の高い方々の目的にぴったり一致する商品を訴求することで購入率の向上につなげています。(赤木氏)

「ソーシャルギフト市場」はコロナ禍で急激に拡大
矢野経済研究所によると、お中元やお歳暮といったフォーマルなギフト市場は縮小傾向にある。一方、ギフト市場全体では、2024年に11兆1880億円(前年比102.7%)を見込んでおり、コロナ禍前の水準を超えて拡大傾向だという。なかでも、より気軽に贈り物ができる「ソーシャルギフト」は、顕著な伸びが見られるようだ(参考:矢野経理研究所「ギフト市場に関する調査を実施(2024年)」)。

LINEギフトは2020年からのコロナ禍で急激に利用者が増えました。直接会わなくても、住所を知らなくても、誕生日や結婚・出産、母の日・父の日といったお祝いの際に気軽にギフトを贈れる利便性が、時代のニーズにマッチしたのだと思います。(赤木氏)
ソーシャルギフトサービスの顕著な成長は、他社でも見られている。たとえば、AnyReach(エニーリーチ)が2022年4月にリリースしたeギフトサービス「AnyGift(エニーギフト)」では、2025年の「母の日」当日の流通取引総額が前年比2倍以上を記録、注文数も前年比3倍以上となり、利用者数は過去最多となった。特に、ランチチケットやエステチケット、宿泊チケットなどの体験型ギフトの需要が大きく伸びたという(参考:eギフトサービス「AnyGift」、母の日eギフト流通額が前年比2倍以上に増加 注文数は前年度比の3倍以上、体験型ギフトの需要も拡大)。
3年で約5倍、2年で約2.5倍。ビューティー領域が伸長するワケ
LINEギフトの好調を牽引するのが「ビューティー」カテゴリーだ。2024年の年間流通額は、2021年度比で約5倍、2022年度比で約2.5倍と大幅に成長しているという。1回の平均単価は約4000円と、他カテゴリーより高い特長もある。
コアターゲットである20~30代の女性と親和性の高いカテゴリーであることに加え、新規出店数が多く、品ぞろえが充実していることも売上成長に寄与しています。さらに、ビューティーと相性のいい機能として、「名入れ」や「LINEギフトオリジナルの商品・パッケージ」「もらった相手が色や香りを選び直せる」といった仕組みを取り入れており、大変好評です。(赤木氏)
同カテゴリー内で近年注力しているのが、「ラグジュアリーブランド」と「韓国コスメブランド」の拡充だ。前者では、イヴ・サンローラン・ボーテ、エスティ ローダーなどが出店しており、2025年夏秋に大型ラグジュアリーブランドが出店を控えている。
後者では、ソーシャルギフト市場で先行する韓国で一定の実績を積んだブランドが、日本市場へ進出するケースが増加。韓国コスメブランドは、華やかなラッピングやメッセージカードなどギフトシーンを意識した工夫を施している。また、手頃な価格帯の商品が多く、購入者の予算条件に合致しやすい点も魅力だ。LINEギフト限定のセット商品も展開しており、ユーザーから好評を得ている。
ギフトならではの特別感を演出する「名入れ機能」も売上増につながっている。たとえば、2024年4月の同サービス開始時に、先んじて導入した「AVEDA(アヴェダ)」の「パドルブラシ」(5060円、ミニ パドルブラシは4400円)は、この施策によって売り上げを大きく伸ばしたという。そのほか、「イヴ・サンローラン・ボーテ」の「YSL ラブシャイン キャンディ グロウ バーム」(5770円)も高い人気を誇る。

また、蓋に「Happy Birthday」という文字がデザインされた、化粧品ブランド「キールズ」の定番人気商品「キールズ クリーム UFC」(3520円)のオリジナルパッケージも売れ行きが良いという。

ギフトを贈られた相手が色や香りを選び直せる機能も好評で、贈り主の購入ハードルを下げることにつながっているようだ。
名入れをする機材の導入や名入れ作業、独自商品・パッケージの制作などブランド側の負担は増えますが、それでも導入するブランドが増えています。色や香りを選び直せる機能については、実際に選び直す方はそれほど多くないようです。ただ、ビューティーカテゴリーの2025年上半期の人気商品を見ると、約半数に同機能が付いています。贈り主にとって選びやすいことは間違いありません。(赤木氏)
LINEギフトでは、2028年度までに年率3割以上の成長、今後1、2年以内に1000億円以上の取扱高をめざしているという。
市場やサービスの伸びしろがある分、出店ブランドや取扱商品が勢いよく増えています。しかし、利用者や利用回数を増やせなければ、出店ブランドがパイを奪い合う事態になってしまいます。そのため、40~50代や男性など幅広い属性の利用者を増やす、あるいは既存ユーザーの利用回数を増やすための取り組みが必要です。「住所や氏名を知らない相手に贈れる」「店舗展開が少なく、手に入りにくい人気ブランドも扱っている」といった利便性の周知や、さらなる機能拡充を検討しています。(赤木氏)
市場全体が勢いづいているソーシャルギフト。ビューティーやグルメを中心に、各社がギフト需要を押し上げようと試行錯誤しており、さらなる伸びが予想される。