
Amazon「プライムデー」の裏でAIから小売サイトへのトラフィックが大幅増加+生成AIサービスによるECシェア争い+OpenAIへのEC進出

AmazonがAIツール「Buy for Me」の試験運用を進めているなか、他のテクノロジー企業によるAIを搭載した競合サービスもEC市場で勢力を拡大しています。米国ではAmazonの「プライムデー」期間中、小売事業者のECサイトのトラフィックが大きく増加。理由の1つは、生成AIツールの表示結果から流入したからです。詳しく解説します。
「プライムデー」成功の裏で米小売事業者のトラフィックが増加
Amazonが有料会員向けに実施している「プライムデー」の2025年(7月11~14日)の流通総額は、AIといったテクノロジーとECの掛け合わせが成功。複数の指標で記録を更新し、過去最高を達成しました。
2025年の「プライムデー」は従来の2日間ではなく4日間という過去最長の期間で実施。その一方で、「プライムデー」の期間中、Adobe Analyticsのアナリストによると米国の小売事業者のEC売上は総額241億ドルに達しました。これは、「プライムデー」に関連して各企業のECサイトへトラフィックが増加したことが理由です。
今回、Adobeが明らかにした驚くべき数字の1つは、AIを活用したツールがEC事業者にもたらしたトラフィックの増加です。
期間中にトラフィック3300%増
Adobeは、OpenAIの大規模言語モデル(LLM)である「ChatGPT」、Perplexityが開発したAI搭載検索エンジン「Perplexity」、その他の仮想アシスタントやWebブラウザといった生成AIソースから米国の小売ECサイトへのトラフィックが、「2024年の同期間と比較して前年比3300%増加した」と評価しました。
そのほかのLLMや生成AIを扱う事業者の実値は追い切れていませんが、Adobeの発表はLLMや生成AIが、消費者がオンラインで商品をどのように発見し購入するかに、大きな役割を果たす可能性があることを示しています。

従前の検索エンジンにAIが並ぶ時代
「プライムデー」の期間に、AIエンジンが消費者を小売事業者へ送ったWebトラフィックが前年比3300%増えたことは、AIエンジンが従来の検索エンジンに肩を並べるものとして台頭してきたことを裏付けています。
消費者が商品を探したり、価格を比較したりするため、検索エンジン「Google」「Bing」「DuckDuckGo」を使うのと同じように、OpenAIの「ChatGPT」、Googleの「Gemini」、Anthropic(アンスロピック)の「Claude(クロード)」も、欲しいものを見つけるために使っています。
米国のEC専門誌『Digital Commerce 360』が、今後公開する予定の「エージェントコマース」に関するレポートによると、オンラインショッピング中に調べ物をする目的で、回答者の40.9%が「ChatGPT」を使用、44.8%がGoogleの「Gemini」を使用していました。
生成AIを起点とした収益化を進めるOpenAI
そのような状況で、OpenAIがEC事業者との連携を強化し、「ChatGPT」の生成結果でECサイトへのリンク先を表示、直接的に収益化しようとしているのは驚くことではありません。
英国の経済紙「Financial Times」は7月16日に、OpenAIがユーザーが商品リストへのリンクをクリックして行われたオンライン販売から、手数料を取り始める計画だと報じました。

このニュースは、OpenAIとECサイト構築サービスを手がけるShopifyとの間で公式サードパーティ検索プロバイダーとなる契約が締結され、その合意に基づくものとされています。
この合意によってShopifyは、MicrosoftのAI搭載検索エンジン「Microsoft Bing」に続き、「ChatGPT」の公式なサードパーティ検索プロバイダーとなりました。

ShopifyはPerplexityとも協力関係にあります。PerplexityはGoogleの検索エンジン「Chrome」やAppleの「Safari」の競合として、独自のAI搭載Webブラウザ「Comet(コメット)」を展開しています。
OpenAIもまた、「Aura」というコードネームでWebブラウザを開発中と報じられており、人間の消費者に代わって商品を検索して購入できるエージェントコマースソリューションであるOpenAIのAIエージェント「Operator」を活用するように作られていると報じられています。
Amazonの「エージェントAI」活用の取り組み
OpenAIとShopifyがエージェントコマースへの取り組みを推進する一方で、Amazonも独自の計画を進めています。Amazonは4月、2025年の「プライムデー」に先駆けて、Amazonの「Buy for Me」ツールのテストを開始しました。
「Buy for Me」は、エージェントAIを利用して、消費者がAmazonのサイト内で直接、他社のECサイトから商品を購入できるようにするツールです。

生成AIサービス提供企業によるシェア争い、Shopifyは許可していない自動スクレイピングを阻止
こうしたテクノロジーを提供する企業が、EC事業者の商圏をより大きなエコシステムへと拡大するにつれて、今後1年間で競合争いが激化することは避けられないでしょう。
すでにShopifyは、許可していないAIエージェントがコンテンツをクロールしたり、自動チェックアウトを実行するのを阻止するため、自社の構築サービス「Shopify」を利用している販売事業者のECサイトの構築コード(robots.txtファイル)に注意書きを追加しています。
更新された指示には「自動スクレイピング(※編注:Webサイトから情報を自動的に収集・抽出する技術)、ショッピング代行をするAIエージェント、または最終確認ステップなしで支払いを完了するいかなるエンドツーエンドのフローも許可しません」と明記しています。

Shopifyの著名なエンジニアでCEOの技術顧問でもあるイリヤ・グリゴリク氏は自身のXアカウントで今回のアップデートについて言及。この新しい指示が「ボットやエージェントに関する既存のルールを追加したり削除したりするものではない」と強調しました。
しかし、彼の考えは、競合争いに勝ち抜こうとするEC分野の他のテクノロジー企業の見解と同じである可能性が高いです。自社が提供するサービスについては、次のように言及しています。
Shopifyは、ECプラットフォームが生成AIをすぐに使える開発キット(SDK)、そして高度なアプリやAIアシスタントを使った決済(エージェントチェックアウト)のニーズに応えるための基本的なプロトコルを提供します。(グリゴリク氏)
イリヤ・グリゴリク氏によるXへのポスト
つまり、Shopifyは競合他社が自分たちと同じようにAIを使った新しい買い物体験を提供しようとしていることを理解しており、今後AIアシスタントによるオンラインショッピングが主流になるなかで、自社が主導権を握りたいと考えているのです。