「プル集客」「プッシュ集客」「フック集客」それぞれの特徴と優先度を理解して、「集客プラン」を作る

ここから、集客の話です。集客施策は、SEO(検索エンジン最適化)、SNS活用、広告、モールイベント参加、プレスリリース等々、たくさんあります。何からやるべきか? 時間も予算も人手も限られているので、優先順位が必要です。集客施策の分類を理解し、集客プランを立てましょう。
集客施策の分類と優先順位
「あの施策が売れるらしい」「◯◯集客やったほうがいいよ」集客施策については色んな情報が飛び交います。実行すると売上に直結しそうな気がして、つい色々手を出してしまいがちですが、一度に実施する施策は絞らないと運営が大変になるばかりです。集客施策は大きく分けて「プル集客」「プッシュ集客」「フック集客」の3つに分類できます。
まずは「プル集客」は、SEOなどで、すでに需要がある顧客を引き寄せる施策です。次に「プッシュ集客」。これは、実店舗での宣伝や、ネット広告などで、こちらから売り込んで「潜在的な需要」を掘り起こす施策です。そして最後に「フック集客」。これは、SNSなどで、間接的な方法で顧客を引きつける施策です。
SEOは明らかに競争が激しそうなので、SNSに気持ちを惹かれる方も多いかと思います。ただ、SNSはなかなか売上には直結しません。筆者としては、まずはプル集客から始め、次にプッシュ集客、最後に「投資として」フック集客と手がけることをお勧めします。

売上に直結するが競争も激しい 「プル集客」
プル集客は、「すでに明確な需要がある顧客」に向けた施策です。対象は、検索経由で来店するお客さんです。施策としては主に、GoogleやECモールでの「検索の仕様を見越した調整」=SEOと、検索連動型広告です。
例えば「父の日 ビール」で検索してやってきたお客さんに対し、商品の露出を高めます。すでに購入するつもりで検索しているため、商品ページを見てくれれば買ってもらえる可能性が高いわけです。
特にSEOは、手間はかかりますが、外注しなければ費用がかかりません。なので、優先順位としては最優先です。当然みんな優先して実施するので競争が激しくなり、自分の商品が埋もれがちですが、法則3で解説したように「一見埋もれていても本当は棲み分けできている」ので諦めずに取り組みましょう。
SEOでまず大事なのは、お客さんの頭の中(検索意図)と検索キーワードを先読みすることです。楽天市場やAmazonなどでの商品検索キーワードなら、商品カテゴリ名(例:クラフトビール)やブランド名(例:よなよなエール)など明確な需要を示すキーワードだけでなく、商品の用途(例:お中元)や詳細ジャンル(例:IPA)や属性(例:お試し)を表すキーワードを踏まえてSEOを施しましょう。なお、Google検索とECモールの商品検索では、仕様は違いますが「先読みの重要性」は同じです。
法則3で紹介した「棲み分け構造」と「ダレナゼ」がイメージできれば、キーワードの想定がしやすくなるはずです。具体的な施策は次の法則6で紹介します。
潜在需要を開拓できる「プッシュ集客」
プッシュ集客は、まだ顕在化していない潜在的な需要を掘り起こす施策です。いわば「父の日に何を贈るか決めていない」お客さんが探し始める前に、「今年の父の日はクラフトビールが人気! 早割クーポンをどうぞ」等と売り込む方法です。
代表的な施策は、実店舗でのオフライン集客、ディスプレイ広告・純広告・SNS広告、インフルエンサーマーケティングなどです。広告は、プッシュ集客の主要な手段です。手始めにやるにはディスプレイ広告、SNS広告を活用します。出稿先の属性を絞り込んで、特定のターゲット層に対して訴求することも有効です。
SEOなどのプル集客だけでは競争が激しく限界があるため、プッシュ集客を組み合わせることで、それまでの限界を超えることができます。
お客さんがまだ能動的に探していない状態なので、こちらから働きかけて需要を「思い出してもらう」必要があります。「そういえば父の日まだ決めてなかった。確かにビール、いいかも」といった反応を引き出すことです。なので集客媒体も重要ですが、「思い出してもらうようなメッセージ設計」が非常に重要になってきます。
もし実店舗がある場合は「ネットショップ用クーポン」を提供することでECでの販売に誘導することができます。催事やポップアップストアで販売するなど、リアルの接点からクーポンで集客するのもプッシュ集客として有効です。
ただし、プッシュ集客は、商材によって向き不向きがあり、「潜在的にその商品を求めている人がどれくらい存在するか」が重要です。例えば「最近目の下のたるみが気になりますよね」という訴求は反応する人が多くても、「毎日の薪割りって大変ですよね」という訴求は、対象者が少ないので、不特定多数へのプッシュ集客は不向きです。こういう場合は、まずプル集客を突き詰めることが優先です。
その次の段階で「どういう人に広告を見てほしいか細かく設定して配信できる」タイプのディスプレイ広告やSNS広告に取り組むとよいでしょう。
中長期で強みを築いていく「フック集客」
フック集客は、販売ではなく、お役立ち情報やイベントなどエンターテ イメントの発信を通じて「間接的に」顧客と接点を作る方法です。
直接的な販売ではなく、じんわり覚えてもらい後につなげるのがフック 集客の目的です。売上につながることもありますが、最初からあまり期待 しないで、投資と思って長い目で取り組むことがお勧めです。EC事業者 のSNS運用は「やってみたけど売上につながらない」というのは当然で、 急いで売上を作りたいなら他の施策を優先したほうがいいでしょう。
施策としてはブログや動画の発信、SNS投稿、オフライン・オンラインでのイベント開催、プレスリリースなどが該当します。
ブログなどで「◯◯な時に◯◯する方法」「◯◯の健康効果とは」といったテキストコンテンツを発信してGoogle検索での露出を目指す「コンテンツマーケティング」施策は、フック集客の中心的な手法です。実は、販売系の検索キーワードと違って調べ物のキーワードは競争が少ない傾向です。例えば販売系のキーワード(例:ネクタイ)は競争が激しいですが、調べ物のキーワード(例:ネクタイの結び方)は競争が少ないわけです。
もちろん調べ物のお客さんを集めても、購入に直結しません。しかし専門性のあるコンテンツをたくさん作ると、サイト全体のGoogle検索順位が高まる効果があるのです(詳しくは法則8参照)。
実店舗やオンラインでのイベント開催もフック集客に有効です。大きくなった EC 事業者は「商品の製造過程を見学できる工場見学」を開催して地元の子供達を呼んだり、旅行がてら工場見学に来る大人たちが集まって、それが SNSで拡散されたりします 。
すぐに売れるわけではないですが、人々の記憶とネット上に思い出が蓄積されていくのは、お店にとって重要な資産だと言えます。
集客プランとしては、前述の比較表を踏まえ、まずはプル集客に力を入れるのが基本です。あとは商品特性を踏まえて、プッシュ集客かフック集客のどちらを選ぶかを決めます。法則6から各施策を紹介するので、まずは理解を深めてから検討してください。

集客施策は商品によって相性の良し悪しがあります。また 以前は良かった施策も効果が落ちることがあります。定期的に施策の効果を検証し、効果のない施策を中止するなどして、リソースを再配分しましょう。そうすれば、新しい集客方法に取り組む余裕が生まれます。
この記事は『売れる! EC事業の経営・運営 ネットショップ担当者、チームのための成功法則。』(インプレス刊)の一部を編集し、公開しているものです。
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