Digital Commerce 360[転載元] 8:00

生成AIソースからの小売ECサイトへのトラフィックの重要性が高まるなか、EC事業者はGoogleの検索結果からのトラフィックがゼロになる(Google Zero)かどうかにかかわらず、AI経由のトラフィック獲得の対応を進めています。市況の変化に加え、AIにピックアップされやすくするための取り組みなど、米国小売企業の事例を解説します。

「Google Zero」が小売事業者にもたらす影響

オンラインで買い物をする消費者が商品を探す際に使う検索ツールの変化に伴い、「Google Zero」という考え方がEC市場に何をもたらすのか――。小売事業者もECサイト運営者もその対応に苦慮しています。

「Google Zero」は最近、一般的に用いられるようになったワードで、Googleの検索エンジンに頼らず、商品リストやWebページへのオーガニックな参照トラフィックをAIによって獲得できるようになった事象を指します。

大規模言語モデル(LLM)やその他の生成AIテクノロジーといったAIツールが台頭してきたことで、消費者が複数のECサイト間で価格を比較したり、購入時に利用できるオプションを比べたりする際に、さまざまな選択肢を得ることができるようになりました。

生成AIソースからのEC流入は増加傾向

すでに、ECにおけるAI検索の役割は拡大しています。Adobe Analyticsは7月、2025年のAmazon「プライムデー」における生成AIから米国の小売ECサイトへのトラフィックは「2024年の同期間と比較して前年比3300%増加した」と発表しました。

「プライムデー」開催期間中の1日あたりの平均訪問数の増加率 (「プライムデー」以前の21日間との比較。出典:Similarweb、チャート作成:Digital Commerce 360)
「プライムデー」開催期間中の1日あたりの平均訪問数の増加率 (「プライムデー」以前の21日間との比較。出典:Similarweb、チャート作成:Digital Commerce 360)

「ゼロクリック検索」増加による打撃

また、Googleが検索結果の上部にAIによる要約機能「AI Overviews」を追加したことは、いわゆる「ゼロクリック検索」(ユーザーが検索エンジンでキーワードを入力した際に検索結果ページ上で疑問が解決され、どのWebサイトにもクリックせずに離脱する現象)の普及を後押ししました。ユーザーは元の質問に対する十分な情報を得るために、他のWebサイトをクリックしてページを移動する必要がなくなったのです。

「AI Overviews」のイメージ
「AI Overviews」のイメージ

Googleに依存しない流入獲得が急務

顧客を獲得するチャネルとして検索に依存してきたEC事業者にとって、この傾向は事業とECサイトの運営に劇的な影響を与えます。

そのため、たとえ「Google Zero」が明日起こらなくても、あるいは近い将来に完全な形で到来しなかったとしても、小売事業者は対策のための準備を進めています。脱・Google検索からの移行を容易にすると期待される施策やソリューションを取り入れる企業が増えているのです。

「Google Zero」の語源ルーツ

「Google Zero」という言葉は、米国のVox Mediaが運営する、テクノロジー関連のニュースサイト「The Verge」のニライ・パテル編集長によって提唱されました。パテル編集長は2024年に、ECを含むWebページを運営する小売事業者が「Googleの検索結果からのトラフィックがゼロになった場合」に発生するシナリオを説明するために「Google Zero」を使いました。

SEO、GEO両軸の対策が求められる時代に

2025年8月上旬の時点では、その現象はまだ起きていません。しかし、2025年のAmazon「プライムデー」で明らかになったように、小売事業者の多くは「ChatGPT」「Gemini」「Perplexity」といったAIツールの表示結果からのECサイトへのアクセスが以前よりも増えていることに注目しています。

この傾向が進むにつれて、検索エンジン最適化(SEO)への注目は、必ずしも単純ではない生成エンジン最適化(GEO)を含むようになっています。

AI要約あり・なしそれぞれの消費者行動

米国シンクタンクのPew Researchによる2025年3月・4月の調査では、AIによる要約付きのGoogle検索結果を見たユーザーは、その下に表示されたGoogleのリンクをクリックする可能性が著しく低いことが判明しました。

2025年3月、Google検索でそれぞれのアクションにつながった割合 (出典:Pew Research Center調査、2025年3月および4月 | グラフ作成:『Digital Commerce 360』)
2025年3月、Google検索でそれぞれのアクションにつながった割合 (出典:Pew Research Center調査、2025年3月および4月 | グラフ作成:『Digital Commerce 360』)

AI要約なしのときはクリック率アップ

別のマーケティング会社Seer Interactiveによる2025年の調査では、Googleの検索結果でAIによる概要が表示された場合、Webサイトに遷移するリンクのオーガニックなクリック率は1月に前年比で1.41%から0.64%に低下したことが判明。AI要約が表示されると、Webサイトをクリックする可能性は低くなる傾向が見られました。

注目すべきは、AIによる概要が表示されなかった場合、同期間にクリック率が上昇したことが観察されたことです。

同時に、こうした消費者行動の変化に対応するための効果的な戦略がいくつか登場し始めています。

AI経由のトラフィック最適化事例

Batteries Plus:引用元となっている情報源を精査

バッテリー商品の通販を運営するBatteries Plusの最高執行責任者であるジョン・シカ氏は、米国のEC専門誌『Digital Commerce 360』に対し、AIツールからのトラフィックを増やすためにいくつかの方法を取っていると説明しました。

Batteries PlusのECサイトトップページ(画像はサイトから追加)
Batteries PlusのECサイトトップページ(画像はサイトから追加)

Batteries Plusでは、AI経由のトラフィックを増やすために社内で情報を整理しています。AIが生成した自社に関連する結果や商品を見かけた際、それがどの情報源に基づいているのかを調べて原因を特定しています。多くの場合、参照元が明記されているため特定できます。(シカ氏)

シカ氏によると、現在、Batteries Plusのトラフィックの約1%はソースがAIです。シカ氏のチームは、Batteries Plusについて言及するAIの回答について、AIの回答の引用元となっている情報源を細かく確認することで、AIがBatteries Plusに言及する機会を増やすための施策を講じることができています。

Batteries Plusは、古くなったWikipediaの掲載情報を新しくしたり、Better Business Bureau(米国とカナダで活動している非営利の民間団体)に寄せられた顧客の不満に対応したり、そのための手順をしっかり見直したりしています。米国の掲示板型ソーシャルニュースサイト「Reddit」などのコミュニティにも、ツールを使って積極的に参加しています。

今後、情報は非常に速く広まり、AIによる検索結果は、顧客がブランドについて調べるときにまず目にするものとして、ますます一般的になるでしょう。だからこそ、こうした取り組みは小売業者が今すぐ優先してやるべきです。(シカ氏)

Kendra Scott:サイトページを増やして生成エンジン最適化

ジュエリーブランドを運営する米国企業のKendra Scottは、AIに対応するためにSEO戦略を立てました。米国のニュースメディア『Digiday』が7月に報じたところによると、Kendra ScottはAIを用いた検索結果に表示されやすくなることを念頭において、1年間で自社のECサイトに8,000ページを追加しました。

Kendra ScottのECサイトトップページ。AIによるピックアップ増を意識し、サイト内のページを大幅に増やした(画像はサイトから追加)
Kendra ScottのECサイトトップページ。AIによるピックアップ増を意識し、サイト内のページを大幅に増やした(画像はサイトから追加)

Kendra ScottのデジタルおよびEコマース担当シニアバイスプレジデント兼責任者であるカマナシシュ・クンドゥ氏によると、Kendra Scottの年間Webトラフィックの5%が「Optiversal」というプラットフォームを通じて生成AIで作成されたWebページに流入しているそうです。

「Optiversal」を通じて生成AIで作成されたページでは、Kendra Scottの商品を特定のテーマに沿って紹介しています。これは、AIが自動で作る要約に合うように、その商品の使い方やコンセプトが優先して伝えられるように工夫されたものです。このやり方は、商品名や短いカテゴリー名に特化した従来の手法とは異なります。それでも、今でも27%は、Google検索の最初のページに従来の手法による検索結果が表示されています。

従来の検索による流入は現在も大切です。しかし、それだけではなく、検索エンジン最適化(SEO) と 生成AI検索最適化(GEO) の両方が、今後の戦略において小売事業者が考えるべき重要な要素になりつつあります。

この記事は今西由加さんが翻訳。世界最大級のEC専門メディア『Digital Commerce 360』(旧『Internet RETAILER』)の記事をネットショップ担当者フォーラムが、天井秀和さん白川久美さん中島郁さんの協力を得て、日本向けに編集したものです。

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