
ECマーケットプレイス「eBay」のAI活用事例。出品者と消費者に提供するAIエージェントとは? AIの劇的な効果とは?

eBayは、出品者、購入者、そして社内スタッフ向けにAIを活用しており、その活用方法の一部はすでに公開されています。
AIで「eBay」の利用体験を向上
AIを最重要課題の1つとして位置付けているeBayは2025年、オンラインマーケットプレイスの競争力を維持するためにAIをどのように活用しているのかを決算発表会などで説明しています。
また、さらなる成長のために活用しているAIが影響をもたらす指標を公開していますが、AIエージェントの全容はまだ一般に知らされていません。しかし、オンラインマーケットプレイス「eBay」の出品者や購入者向けに導入されているAIツールについては、その目的が明確になっています。
7月30日の決算説明会で、eBayの社長兼最高経営責任者であるジェイミー・イアノンCEOは次のように説明します。
AIの活用は、出品体験の効率化、検索の質向上をもたらし、購入者と商品在庫の適切なマッチング、よりインスピレーションを与えるショッピング体験の創出、そしてマーケットプレイス全体の信頼性向上につながります。これらにより、お客さまにとっての「eBay」の利用体験を根本的に変え続けることができます。(イアノンCEO)
「eBay」ではどのようにAIを活用し、出品者と購入者に対して効率的で直感的に利用できるようにしているのでしょうか? 現時点でわかっていることをいくつか紹介します。
AIエージェントがパーソナライズ、レコメンデーションを加速
AIエージェントは、ユーザーに代わってソフトウェアが自律的にタスクを実行するという特長があります。そのため、パーソナルショッパーとして機能する代理型コマースの役割、チーム向けの業務効率化の両方に活用できます。eBayは、この両方の目的でAIを利用しています。
AIエージェントが担う“代理型コマース”は私たちにとって非常に大きなビジネス拡大の機会をもたらすと考えています。このテクノロジーは、お客さまに対するパーソナライゼーションとレコメンデーションをさらに加速させることができるからです。
そしてeBayは、AIエージェントがこれからさらに普及していくなかで、ビジネスで成功し続けるために多角的な戦略を掲げています。
たとえば、新規商品ではない、中古品の在庫のラインアップとSKU数を強化すること、主要な専門分野に特化した体験に投資すること、ライブコマース機能「eBay Live」のような新しいコミュニティ体験における継続的なイノベーションに注力することです。(イアノンCEO)
eBayは現在テスト中のAIショッピングエージェントについて「ユーザーの嗜(し)好に基づいて、リアルタイムでパーソナライズされた商品のお薦めや専門的なアドバイス」を提供できると説明。今のところ、このAIエージェントは限定的に利用されていますが今後、利用範囲を拡大していく予定です。
AIエージェントのテスト運用が続くなかで、「eBay独自の代理型エージェント機能の取り組みには期待感を持っています」とイアノンCEOは7月30日の決算説明会で話しました。
eBayは、カスタマーエクスペリエンスの向上に向けて、他にも専門的なエージェントを活用しています。その規模、独自の在庫、差別化された価値提案、そして独自のAI機能の加速により、AIエージェントコマースの未来においてeBayは最終的に優位な立場にあると確信しています。(イアノンCEO)
OpenAIともAIエージェントで連携しています。OpenAIがECサイトを含むWebベースのタスクを処理できるAIエージェント「Operator」とECへの今後の展望について詳細を共有した1月、ハンドメイド商品のECを運営するEtsy、食料品や日用品のオンラインデリバリーサービスを提供するInstacartと並んで、eBayを最初のパートナー企業の1つにあげました。
販促だけではなく、社内業務でもAIエージェントの活用方法を模索しています。イアノンCEOは4月、「eBayはマーケティング、カスタマーサポートなどで継続してエージェント技術を使用し、業務効率を著しく向上させています」と説明しています。

AIがeBayにもたらす恩恵とは
マーケティング業務でコスト削減+リソースの効果的な活用
イアノンCEOによると、マーケティングはeBayがすでにAI活用による恩恵を受けている分野の1つです。
2025年のマーケティング投資収益率(ROI)は全体的に良好な状態を保っていますが、特筆すべき点はありません。eBayは市場の動向に加えて、マーケティング分野でもAIを活用する方法を継続的に模索しています。具体的には、顧客関係管理(CRM)、お客さまとのコミュニケーションで、これまでにない新しい形でAIを導入し始めています。(イアノンCEO)
その結果、コスト削減とリソースのより効果的な活用ができるようになりました。
eBayは生成AIを活用して、お客さまとのパーソナライズされたエンゲージメント向上を促進しています。2024年後半には米国内で、お客さまごとにパーソナライズしたメールに、AIが生成した件名とプレヘッダーを採用しました。これにより、従前と比較して購入意欲の高いお客さまによる「eBay」への訪問が40%以上増加しました。(イアノンCEO)
決算説明会でイアノンCEOは、こうした取り組みはGoogleの有料リスティング広告(PLA)の生成にも及んでいると説明。初期の結果では、「より質の高いAI生成による代替案」が生まれ、「これらのリスティングの承認率が高まり、GMV(流通総額)が大幅に向上した」とのことです。
また、ここ数か月の他の取り組みとして、イアノンCEOは「Googleに配信される商品リスティング広告の出品タイトルの最適化に生成AIを活用した。これによりリスティングの品質スコア、ランキング、全体的なパフォーマンスが目に見えて向上し、GMVの増加につながった」と説明しました。
出品者、購入者向けにツール提供
eBayは、出品者と購入者向けにさまざまなツールを公開しています。これらのツールには、出品作成のための生成AIや、購入者向けの「Shop the Look」(編注:AIを活用したファッションキュレーション機能)が含まれます。
最新の機能の1つは、生成AIを活用したビデオツールです。米国の出品者は、このツールを使って自分の出品情報からショートビデオを生成できます。このビデオ形式は、YouTubeやTikTokなどのソーシャルプラットフォームで共有されるように設計されています。
<出品者向け>商品説明を自動生成
イアノンCEOは4月、次のように説明しています。
2025年1-3月期(第1四半期)の終わりまでに、米国、英国、ドイツのCtoC出品者向けに、簡素化したAI活用出品フローを展開しました。これは、eBayの「Magical Listing」(編注:AIが商品画像から出品情報を自動生成する機能)の技術とプロダクトナレッジグラフを統合したものです。出品者は、写真さえあれば出品できるようになりました。生成AIを活用してカタログ内の正確な商品を特定し、商品説明を含む関連する商品詳細を可能な限り自動入力するというものです。(イアノンCEO)

イアノンCEOによると、この出品ワークフローが使用された場合、顧客満足度が90%を超えたそうです。イアノン氏は、その影響について「出品者と、その出品情報を見る購入者の両方にとって時間の節約になった」と評価。さらに、4月時点で少なくとも1000万人以上の出品者がこのAI活用出品フローを使用しました。その結果、2億件以上の出品情報が作成され、イアノン氏はこれらの出品が「数十億ドル」の流通総額(GMV)に貢献したと分析しました。
<購入者向け>好みの商品をレコメンデーション
「Shop the Look」はAIを使って消費者にパーソナライズされた、視覚的なレコメンデーションをする機能です。このパーソナライゼーションは、以前に閲覧した情報に基づいており、似たような商品やコーディネートのインスピレーションを自動的にキュレーションしてカルーセル形式で表示します。
2024年にこの機能を導入した際、eBayのプロダクトマネージャーであるラウル・ロメロ氏は、「『Shop the Look』は、お客さまのこれまでの購入履歴に合わせてパーソナライズされる、魅力的なコーディネートの画像スライドです。画像の中にあるインタラクティブなポイントをタップすると、似た商品や、そのコーディネートに合うアイテムのヒントが見つかる仕組みになっています」と説明しました。
「Shop the Look」の基本的な目的は、eBayが他のAI機能に期待していることと同じです。ロメロ氏が言うように、それは「利用者の障壁を減らし、売買する力を与えること」なのです。