島川将[執筆] 8:00

「スワイプ型LP」という言葉を、ECを手がける読者の皆さんは聞いたことがありますか? 広告業界がテレビや紙媒体からインターネットへと本格シフトして久しい今、CPA(顧客獲得単価)を下げる施策は、どの広告主にとっても最優先の課題になっています。にもかかわらず、コンバージョンに直結するランディングページ(LP)はなぜか、いまだ“縦スクロール型”が常識として使い続けられているのです。それはなぜか? それを今のスマートフォンユーザーに求められるUI・UXを提供する方法はあるのか? 解説します。

スマホ時代に残されたPC時代の負の遺産

インターネットの主戦場がPCからスマホに移り変わるなかで、縦スクロール型のLPは「PC時代の負の遺産」とも言える存在になっている――と、筆者は感じています。

かつてPCが主流だった時代には、マウスでじっくりと読み進めるという行動が一般的。また、「商品を実際に手に取って確認できない」というECの特性上、商品説明などで”じっくりと説明する”――といった運営側の対応により、縦スクロール型のECサイトのページが普及、縦長LPもその流れを受けてEC事業者に利用されるようになりました。

しかし、スマホでは“スクロール”という行為が直感的に行えるようになり、情報が「読み飛ばされる」ことが当たり前になっていきました。その代替策として普及していったのが、スワイプ型のページ作りです。

縦スクロール型LPのイメージ

ユーザー行動に合わせて進化したUIがスワイプ型LPという新しい選択肢、一方で取り残されたLP

この変化へ対応するように、InstagramやTikTok、楽天市場、Amazonといったサービスでは、ユーザーが自然と「止まりながら読み進める」ことができるUI──すなわち「スワイプ」が主流。そのサービスを利用するユーザーにとって、スワイプで確認するという行為は日常行為となっています。

こうした変化に追いついていないのが、LPの世界。いまだに広告などから誘導されたLPは縦スクロール型のまま。動画を入れたり、UGCを追加したり、アニメーションを駆使したりと、「どうにかして止まってもらおう」と工夫を凝らす一方で、UIそのものを変える発想があまり広まっていませんでした。

スワイプ型を採用する大手ECモールなど

読ませる構造としてのスワイプ型LP

このようにUI・UXが変わるなか、スワイプをLPに活用する企業が出てきました。

スワイプをLPに活用するのは「スワイプ型LP」と言われ、画面が1ステップごとに区切り、各情報が1画面に収まる設計になっているのが特長です。そのため、ユーザーは“読み飛ばす”ことができず、情報を順番通りに受け取る構造になっています。

雑誌のように気になる部分だけ拾い読みするスクロール型LPに対して、スワイプ型は漫画や電子書籍のように「順序に従って読む」という体験をすることになります。

スワイプ型LP

縦スクロール型では「最後までざっと見てから戻って読み直す」という行動がよく見られますが、スワイプ型LPでは前のステップに戻るユーザーが10%未満というデータがあります。これは、スワイプ型が“読み飛ばし”を防ぎ、読み進める体験を設計として実現できていることを示しています。

CVRが上がる?──誤解とその本質

当初、スワイプ型LPは「読まれるからCVRが上がる!」と過剰に期待されることがありました。しかし、本質はそこではありません。スワイプ型LPはユーザーに順を追って理解を促すシナリオ設計が求められ、その内容がCVRに影響するというのが浸透していったのです。

実際、良いシナリオ構成のスワイプ型LPは縦スクロール型以上に高いCVRを記録し、一方で伝わりにくい・順序の悪いシナリオは、CVRが下がるという現象も確認されています。

女性用下着メーカーのLPでは、訴求内容を変えず、スワイプ型LPで前後のつながりを作ったことで最終ステップ到達率が従前比で10ポイント向上、CVRは1.3倍に。大手化粧品メーカーのLPも同様に訴求内容を変えず、構成の見直しにより最終ステップ到達率が改善、CVRが2.5倍以上にアップしました。

スクロール型LPとスワイプ型LP

LP改善は、いま本質的な転換期にある

広告運用におけるテストは、バナーやクリエイティブなど「入口部分」の調整ばかりで、最終的な成果を左右するLPそのものは後回しにされがちです。その背景には、LP改修にかかるコストやリソースの問題、そして何より「良し悪し」がヒートマップなど定性的な指標でしか把握できない、という根本的な課題があるからです。

スワイプ型LPは、その課題を解決できる可能性があります。

画面ごとの到達率、滞在時間、離脱率、CTAクリック率などを定量的に取得でき、ユーザーの反応をステップ単位で可視化・評価することが可能。これにより、構成全体を俯瞰しながら「必要なところだけを改修する」という、効率的かつ本質的な改善アプローチが実現できるのです。

購入ステップごとの各種数値の例

さらに、ユーザーのニーズが多様化している今、1本のLPで“全体最適”をめざす時代は終わりを迎えつつあります。これからは、ユーザーセグメントごとに複数のLPを展開し、それぞれの行動に合わせて柔軟にコンテンツを最適化していくことが求められます。

スワイプ型LPは、まさにその実現に最適な仕組みと言えます。定量データに基づいて、柔軟かつスピーディに改善が可能であり、従来よりも少ないコストとリソースで、効果的なLPOを実行できます。つまり、スワイプ型LPは「今の時代にこそ求められる、変化対応力の高いLP設計」と言えるのです。

UIではなく、マーケティングの思想そのもの

スワイプ型LPは、今のスマホ時代にあわせて登場した“進化系UI”であり、単なるUIの違いにとどまりません。むしろその本質は、「ユーザーがどう判断し、どう行動するのか」というマーケティングの根本的な思想に問いを投げかける存在です。

私たちが信じてきた「良いクリエイティブ」や「最適な構成」は、果たして本当に“ユーザーの反応”を捉えてきたのでしょうか?

スワイプ型LPは、その問いに対して、新しい測り方と考え方を提示してくれます。

◇◇◇

次回後編では、ユーザーの意思決定を支配する“システム1とシステム2”の視点から、スワイプ型LPがどのように「心が動いた瞬間」を定量化し、マーケティングの分析手法そのものを進化させていくのかを掘り下げていきます。

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