
「AIエージェントは小売業の事業発展の中心」と位置づけるWalmartのAI開発・活用の今とこれから
米国小売大手のWalmartは、AIアシスタントや、ユーザーに代わり人工知能(AI)が自律的に行動し購買行動をサポートする「エージェントコマース」を開発・運用する取り組みの一環で、新たに開発したAIアシスタント「Sparky(スパーキー)」の提供を始めました。「Sparky」はオンライン上で買い物する消費者をサポートするAIアシスタント。Walmartは今後さらに「Sparky」のAI機能を高度化し、利便性の向上、顧客1人ひとりに最適な提案を実現する計画です。
Walmart発のAIアシスタント「Sparky」が顧客の買い物をサポート
AIの活用がEC業界で注目を集めるなか、Walmart(米国のEC専門誌『Digital Commerce 360』によると、2025年のWalmartのEC売上高は1538億8000万ドルに達すると予測)は、開発したAIアシスタント「Sparky」の展開を強化し、消費者に広く使ってもらおうとしています。
Walmartは先日、「Sparky」のサービス提供を始め、「エージェントコマース」を推進していることをアピールしました。新たなこのAI搭載ツール「Sparky」は、顧客がオンラインで買い物をする際に商品を検索したり、異なる選択肢を比較したり、レビューをふるいにかけたりするのをサポートします。

Walmartが6月6日に公開したニュースリリースによると、「Sparky」は現在、全ての商品カテゴリーで利用可能。消費者はWalmartのモバイルアプリや、笑顔のアイコンのついた「Ask Sparky」ボタンからアクセスできます。

「Sparky」の特長
Walmartの技術戦略および新興技術担当シニアバイスプレジデントであるデジレー・ゴスビー氏は、「多くの人が常にオンラインにつながっている現代の世界において、『Sparky』は単に質問に答えるだけでなく、信頼できるパートナーとして設計されています」と説明しています。
Walmartは、この新たな顧客向けアシスタントのAI機能について、時間をかけて、より高度なAI機能にアップグレードしていく予定です。このアップグレードには、自動再注文機能や、消費者がテキストだけでなく、画像、音声、動画でも顧客とやり取りできるマルチモーダル入力機能などが含まれます。
レビュー要約、商品比較、購入シナリオ設計まで実現
一般的なチャットボットとは異なり、「Sparky」は小売業のユースケースに特化して調整された大規模言語モデルで学習しています。Walmartによると、「Sparky」は、詳細な商品の問い合わせに対応したり、顧客レビューを要約したり、モバイルアプリ内でユーザーが商品を比較するのをサポートしたりできます。
ゴスビー氏は、「Sparky」が消費者をサポートする一例として、どのスポーツチームが試合をしているかを確認し、適切なユニフォームを見つけたり、ビーチの天気を調べて服装の提案をするといった、購入につながりやすいシナリオの設計をサポートできる――と説明しています。
「Sparky」はまた、イベントの計画やギフト選びもサポート可能で、おもちゃ、装飾品、そのほかさまざまな行事に特化したアイテムを提案することもできます。
「Sparky」は、商品に関する質問に答えたり、購入を提案するアイテムを比較したりすることで、オンラインショッピングの際に不明な点があるときの漠然としたイメージを不要にし、お客さまが自信を持ってカートに追加できるような提案をします。「Sparky」は、商品に関連する質問に即座に包括的な回答を提供し、お客さまが特定の機能を素早く理解し、商品を比較し、確かな情報に基づいた買い物の選択をするのに役立ちます。(ゴスビー氏)
「Sparky」は、Walmartが持つ既存のAIを活用したショッピングツール群に基づいて構築されています。「これには現在、商品レビューの要約、商品の説明と比較、ナビゲーションバー内のAI対応検索が含まれています」(ゴスビー氏)
WalmartのAI活用施策の変遷とめざす「AIエージェント」の高度化
販売事業者向けサポートツールの活用
Walmartは販売事業者向けにも、業務をサポートするAIツールを開発し、導入しています。2025年3月にAIツール「Wally」を発表しました。これは、Walmartの店舗やECサイトに卸売りする販売事業者に向け、商品の効率的な調達をサポートするために設計された生成AIアシスタントです。

顧客向けAIエージェントの高度化
「Sparky」の機能には、Walmartが昨今強化している、ユーザーに代わり自律的にAIが行動する「AIエージェント」への投資拡大も反映しています。「Sparky」は、コンテンツの生成にとどまらず、ユーザーに代わって商品の選定や決済取引の完了といったタスクを実行します。
Walmartの最高技術責任者であるハリ・ヴァスデフ氏によると、AIエージェント領域におけるWalmartの従前の取り組みは、社内向けのツールと顧客向けのモバイルアプリを主な焦点としていました。
しかし、「Sparky」の登場により、Walmartが手がけるAIエージェントはより高度な顧客向けのコミュニケーション機能に進化しています。Walmartは、「Sparky」をマルチモーダルエージェントへと進化させ、日用品の自動再注文、サービスの予約、消費者の好みに基づいてパーソナライズした提案など、より複雑なタスクを処理できるようにする計画です。
ゴスビー氏は「最終的に、『Sparky』は利用者の日ごろの煩雑なタスクを解決し、もっと時間を割きたい大切なことのための時間を確保してくれるでしょう」と予測しています。
たとえば、「Sparky」への「夕食のメニューはどうしよう?」という漠然とした問いが、家族全員が満足する1週間分の献立の提案につながり、その材料は自動で買い物カートに追加されるようになります。「この水漏れしている蛇口をどう直したらいい?」という問いには、「Sparky」により、必要な工具を当日配送で注文できる旨の段階的なガイダンスがされるようになるでしょう。
「Sparky」は単なる機能ではありません。AIエージェントを深化する次のステップへの基盤となるものです。Walmartが描くショッピングの未来への道筋を加速させる「Sparky」は、小売業に革命をもたらすだけでなく、お客さまに提供する新たなカスタマーエクスペリエンスへの道を開いています。(ゴスビー氏)
消費者によるAI活用の拡大と、AIへの「信頼」の壁
Walmartはいまや、AIエージェントの活用を探るリテール企業やテクノロジー企業に仲間入りしています。たとえば、2025年4月にはAmazonが「Buy for Me」という機能を試作し始めました。これは、消費者がAmazonアプリから直接、他のブランドの商品を買えるようにするものです。

Walmartは、6月初旬に発行したレポート「Retail Rewired 2025」(エージェント型AIが小売業界に与えている変化を分析し、今後の方向性を示す内容のレポート)で、AIのなかで特に「AIエージェント」を小売業の「次の事業発展の中心」と位置づけ、「目には見えないが、上質な購入体験に不可欠なもの」と表現しています。
このレポートによると、現在、消費者の27%がインフルエンサーによる商品の提案よりもAIによるレコメンデーションを信頼しており、多くの人が価格の比較、価格下落の通知、過去の自身の好みに基づく選択肢の絞り込みにすでにAIを利用しています。
しかし、AIへの依存度が高まっているにもかかわらず、消費者はAIを活用するタイミングや利用方法に関しては、まだ慎重です。検索の仕方は依然として従来のスタイルが主流となっており、調査回答者の46%は、デジタルアシスタントやAIエージェントに買い物の全てを任せることについて「やや抵抗がある、または非常に抵抗がある」と答えています。
Walmartの調査結果によると、消費者は日用品のようなリスクが低いアイテムの購入にはデジタルアシスタントを使うことに抵抗がないようです。しかし、家具のような高額な商品や、食品のように個人的なこだわりが強い商品となると、AIに任せることへの信頼には壁があり、抵抗感があるようです。(「Retail Rewired 2025」より)