【ゴルフ用品EC大手GDOのEC戦略】物価高でもリテールは好調、要因は「購入ハードルを下げる」「購入体験の向上」

ゴルフ用品のネット販売などを行うゴルフダイジェスト・オンライン(=GDO)では、ECでの売り上げが堅調に推移している。物価高でゴルフ用品の値上げが続く中、中古品やサブスク、下取り販売など、コストを抑えて利用できるメニューを充実させたことが奏功した。前期の成果や今後の事業計画などについて同社の坪井春樹リテールビジネスユニット長に聞いた。

中古事業がリテール好調に貢献
――前期(2024年12月期)の業績を振り返って。
実店舗やECなどの小売り事業全体は、前年対比で104%くらいの売り上げとなった。ECだけで見てもやはり104%程度の伸長になっている。市況が厳しいと言われている業界のなかでは、比較的、順調に推移したととらえている。
――商品カテゴリー別の動向は。
引き続き、中古事業が好調に推移しており、売上高は対前年比で120%程度に成長した。(ゴルフクラブの購入と同じタイミングで手持ちのゴルフクラブの買い取りができ、買い取り額との差額で決済する)「下取り割」や、(ゴルフクラブのサブスクリプション型サービスである)「トライショット」といったサービスが変わらず好調に伸びている。
そのため、中古品の調達が増えて、売り上げが上がっている状態が続いている。この2つのサービスをエンジンとして中古販売が好調に伸びており、うまく循環できている。

在庫の豊富さが強み
当社は中古事業での取扱商品の99%がゴルフクラブ。新品の値上がりに連動して中古も値上がりするが、それでも新品に比べると割安感があると思う。我々の立場からすると、中古は競合がまだそこまで多くはなく、限られている状況のため、ECで中古品の在庫をたくさん持っているということは強みとなり、まだまだ成長段階にあると考えている。
アパレルはダウントレンド
一方で厳しかったのがゴルフウェア類。アパレルのカテゴリーに関しては、前年割れの状況で、ここは市場でも結構ダウントレンドだとは聞いていたが、我々も同じくそういった状態になってしまった。
元々、我々は比較的アパレルが強い売り場だったが、昨今は大手量販店がECでの販売を強化されたり、メーカーによる直営サイトの強化や、大手ECモールでのゴルフ関連商品の取扱拡大など、競合が増えたことが影響していると見ている。
ゴルフ市場の顧客傾向は2極化
コロナ禍後のゴルフ離れと値上がりが市場に影響
――ゴルフ市場全体の市況は。
2021年、2022年はコロナ禍に伴って(3密を回避できるレジャーとして)ゴルフ利用者が増えたが、そこから比べると、2023年は落ち込んでいて、2024年もそれが続いたイメージ。コロナのタイミングで始めた若い人や、もう1回やり直し出した人などがかなり多くいたが、そうした人たちが他のレジャーもできるようになってきたタイミングで、離れていったと業界ではとらえている。
また、もう1つの外部要因として、商品の単価が上がっていることがある。人件費であったり、製造に関わる費用、物流費、素材自体の高騰なども重なっていて、特にゴルフクラブは毎年のように単価が上がっている。
一部アパレルにも影響している面があり、そういった単価自体が上がることによって買い辛くなったことは今までよりかは増えていると思う。ゴルフクラブの価格に関しては、メーカーによって異なるが、特に海外のブランドなどでは1年前と比べて10%程度は上がっている印象。
新品を買う層と安さを求める層に別れる
――新品のゴルフクラブの販売が影響を受けていると。
今、価格を気にせずに買えるという人はやはりそこまで多くはない。新商品が発売されたタイミングで売れる量というのはそこまで大きくは変わっていないが、その次くらいの中間期のタイミングで購入する層がかなり減ってきたのではないか。
以前までは6万円程度で買えた新品のクラブが、10万円となってしまうと購入を躊躇(ちゅうちょ)してしまう人もいるだろう。おそらく今は、高くても新品を買える層と、なるべく安く中古や特価品で買うという層の二極化がこれまで以上にはっきりしてきていると思う。
DX推進で生産力アップを狙う
――今の物価高は小売市場にとって非常に逆風の状況となっている。
物価高の影響を受けて、モノが売れにくい時代になったということはあるが、当社では基本的には今期もさらに売り上げを上げるという計画でいる。
まずは強みとなっている中古事業をさらに注力させたいと思っている。今は調達ができるルートをある程度確立できたので、それを商品化していくためのインフラ周りをより強化していく考え。
特に物流に関わるところで、買い取りの査定体制や、撮影して商品化するところなど、オペレーションコストがかかる部分なので、そこにDX化を図って上手くソリューションを活用することで、人力でやっていた部分を少しでも生産性を上げていくことができるようになると思う。
顧客のデジタル体験を強化
あとは会社としても、デジタル体験をいかに強化していくかという話はかなり出ている。その中でもAIの活用は1つテーマにもなっているので、今年はそれに取り組んでいき、成果を出せるようにしたいと思う。
実店舗で接客しているような「AI試着室」をテスト中
――すでに導入しているものでは。
今は、ECで「AI試着室」というサービスをテストしている。バーチャル試着のような仕組みなのだが、顧客が自身の撮影画像をアップして、それに通販サイトにあるアパレル商品の画像を選んで当て込むと、AIが実際に着用している様子の画像を生成することができるもの。着用時のシワなども上手く表現して、自然に着ているような画像を生成できるというところがポイント。モデルの画像に着せ替えのように当て込むことも可能。
これは電通デジタルさんと共同で、自社開発したもので、テスト版を2025年2月にリリースして一部の商品で開始しており、今後はこれを徐々に改良していきたいと思っている。
ある程度まではできているが、サイズ感までを完璧に表現できているという段階ではまだないので、次のステップで実現できるようにしたい。最終的には、「あなたにはこういった商品が似合います」や、「このトップスにはこういった機能もあります」というような形で、コメントとして顧客に対してレコメンドできるようなAI機能を持たせたい。
いわば、実店舗でスタッフが接客しているようなイメージだろう。こうした機能をECに取り入れる効果としては、購入の最後の後押しになるというコンバージョンへの期待もあるが、単純にWeb上で商品を選びやすくするという目的もあると思う。
商品管理のDX化をめざす
――DX化で生産性を上げるとは具体的には。
さまざまな場面で必要だと考えている。たとえば、今は査定担当のスタッフがゴルフクラブを見て、いつのどのブランドのものかということを判断しているが、その作業自体はある程度ゴルフの知識やゴルフクラブのことをわかっていないと行うことができない。
作業自体にも時間がかかるので、そうしたところを人の目ではなくて、カメラとAIを駆使して、撮影しただけで商品の状態も含めてランク分けなども自動でできるようになるとかなり生産性が上がるだろう。
あとは、実店舗の話になるが、中古クラブの場合、商品ごとにそれぞれ価格シールを付けなくてはいけない。今は、店内に陳列するゴルフクラブのヘッドに1枚ずつ価格シールを作って貼っているが、新商品の売れ行きなどによって中古商品の価格も連動して相場が変わっている。何かを見て値札を変えるという作業は、割と頻繁に発生するため、価格チェックは、毎週、担当者がやっている。これが非常に大変な作業となるため、例えば電子タグを導入して、PCで価格変更したものをアップロードするとその電子タグの価格情報も変わるなど。
中古クラブはSKU数も膨大なため、まだ取り入れることはできていないが、こうしたところもテコ入れしていく必要はあると思う。RFID(※編注:電波を利用して、非接触でICタグの情報を読み書きする技術)も導入することで、もっと商品管理も楽になると思うのでそうしたところも含めて生産性を上げていきたい。その結果、商品化も速くなり、顧客に届けるスピードも速くできるだろう。
物価高のなかの勝ち筋は「購入ハードルを下げる」「購入体験の向上」
――物価高の中、商品を販売していくためには。
現在の物価高というポイントを1つ意識して申し上げると、やはり購入するハードルをいかに下げられるかということが大事になるかと思う。それは金額的な部分もそうだし、やはり、利便性ということもそうだと思う。
あとはECはどうしても商品を直接見て手に取ることができないため、ECでの買い物で失敗をしないようにできるかという課題を解消することが重要。当社で言えば、トライショットであったりバーチャル試着など。金額的な部分で言えば下取り割などの取り組みがあるかと思う。そうしたサービスのどれか1つというよりかは、組み合わせなのではないだろうか。
情報があまり得られないとECで商品を買いづらいということは当然あるかと思う。最新のAI施策も含めてだが、こうしたサービスを蓄積していき、購買体験を向上させていくということが大事になるのではないだろうか。
※画像、サイトURLなどをネットショップ担当者フォーラム編集部が追加している場合もあります。
※見出しはネットショップ担当者フォーラム編集部が編集している場合もあります。
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