カルビーの新たな販売戦略とCRM施策。1人ひとりの腸内環境に合わせた“自分専用グラノーラ”「Body Granola」の事例

カルビーは成長戦略として掲げる「食と健康」領域の新たなビジネスモデルとして、腸内環境を検査し、グラノーラを定期購買するサービス「Body Granola(ボディグラノーラ)」を2023年4月に始めた。2025年5月には、腸内フローラ(腸内に生息する細菌の群集。別名・腸内細菌叢)検査の利用者が3万人を突破した。サービスの体験設計や販売戦略、CRM施策を、カルビー ジャパンリージョン マーケティング本部 シリアル部 Body Granolaチーム ブランドマネジャーの金子哲也氏に聞いた。
1人ひとり異なる「腸内環境」に着目した理由
「ボディグラノーラ」の構想がスタートしたのは2020年春のコロナ禍。健康へのニーズの高まりに加え、自社の成長戦略としても「食と健康」は注力領域であり、新規事業を模索するなかで「腸内環境」に着目したという。
人の腸内には約1000種類・40兆個もの菌が存在し、その構成は1人ひとり異なります。近年では、腸内環境を整えることが免疫力の向上や未病に関わっているという研究も発表されており、非常に興味深い領域だなと。商品軸で考えると、さまざまなトッピングが可能な「フルグラ」にはカスタマイズの余地があり、腸内環境に合わせて個別最適化された商品提案をできるのではと考えました。(金子氏)

2021年春に、腸内環境研究で国内最先端のメタジェン(山形県鶴岡市)と本格的な共同研究を開始。事業化を進める上で、国内最多の腸内フローラ検査を手がけるサイキンソー(東京都渋谷区)の検査技術を導入した。そして、構想から約2年半を経て「ボディグラノーラ」をリリースした。
腸内フローラ検査を経て「自分専用グラノーラ」を定期購入
事業化にあたり、健康や美容への意識が高く、腸活に関心のある20~40代の女性をターゲットに据え、サービスを開発したという。
体験設計は、大きく2段階に分かれる。1つ目は「腸内フローラ検査」。専用Webサイトから腸内フローラ検査キット(1万6500円)を注文し、到着後、採便・ポスト投函すると約4~6週間で検査結果が届く。検査では、全57タイプに分類された腸内フローラのタイプに加え、腸内に存在するすべての菌のリストを提示するという。


腸内フローラのタイプは、「短鎖脂肪酸の生成作用のある6種類の腸内細菌のうち、どの菌を多く保有しているか」をもとに分類しています。短鎖脂肪酸は、腸内環境のバランスを整えたり、免疫機能をサポートしたりする働きがあることが、多くの研究で示されているためです。(金子氏)
2つ目は、「自分専用グラノーラの定期購入」だ。腸内フローラ検査の結果をもとに、全6種類のトッピングのうち自身のタイプに合った3種類を選んで、ベースのグラノーラと共に購入する(20食分で3780円)。グラノーラの定期購入を前提としたサービスではあるが、検査のみの実施も可能だ。このビジネスモデルの強みは、どこにあるのか。

腸内環境の領域で国内トップのメタジェン、サイキンソーと協業できたことが最大の強みです。加えて、シリアル食品の知見が蓄積してきたことや75年にわたり培ってきた当社のブランド力も信頼性や継続率を支える土台だと考えています。(金子氏)
主な利用者は40~50代女性、テレビCMが認知拡大に貢献
2023年4月のリリース後は、テレビCMとウェブ広告を中心に認知拡大、購入につなげていった。最も認知拡大に貢献したのはテレビCMで、イメージキャラクターに田中みな実さんと櫻井海音さんを起用し、第一弾は2024年2月に関東エリアで放送開始した。
テレビCMを通じて、認知が大きく広がった実感があります。認知が高まると検索回数も増えるので、ウェブ広告のパフォーマンスも向上しました。また、ウェブ広告の効果分析技術の進化により、獲得しやすいセグメントとそうでないセグメントが明確になり、より効率的な広告運用につながっています。(金子氏)
2025年3月からは、田中みな実さんを起用した第二弾のテレビCMも放映開始した。
2025年1月末時点で腸内フローラ検査人数が2万人を突破したため、第二弾はそうした実績の訴求も盛り込み、よりユーザー獲得を意識した構成としました。(金子氏)

2025年5月時点では、検査人数が3万2000人を突破。多い時は月に約2000人が検査を行うという。この実績について、「驚いている」と金子氏は話す。
腸内フローラ検査キットは1万円を超える価格帯ですし、ハードルが高いのではないかと懸念がありましたが、想定以上の反響です。その背景にあるのは、「腸活ブーム」かなと。特に2024年は、テレビやWebメディアで「ボディグラノーラ」を取り上げていただく機会が増え、大きな追い風となりました。(金子氏)
「ボディグラノーラ」のマーケティングを担当するカルビーの金子哲也氏
「ボディグラノーラ」の主な利用者層は、40~50代の女性とのこと。当初、ターゲットとしていた20~40代よりも年齢層が高い。なぜミドル層の支持を得ているのか。
若年層と比較してミドル層は金銭的に余裕があり、かつ同サービスを通じて当社が解決したい課題を切実に持っているのもミドル層でした。たとえば、便秘や腸内環境の改善、ダイエット、免疫力向上など。若年層にも同様の課題感があるものの、ミドル層の方がより課題意識が強くあり、それらの課題解決への期待が購買行動につながっていると捉えています(金子氏)
多くの利用者は、腸内フローラ検査の結果に基づいておすすめされた3種類のトッピングをそのまま購入する。継続率は非公開だが、腸内環境への興味が強いユーザーが多いことから比較的高いという。一方で、腸内環境に興味があっても日常的にグラノーラを食べない人も多くいる。そのため腸内フローラ検査だけを受ける人も一定数いるそうだ。
「食事コーチング」や「他社製品の取り扱い」も開始
CRM戦略としては、メールとLINEのコミュニケーションを通じて、ユーザーが必要とする情報を届けることに注力している。コミュニケーションにおける大きな課題は、腸内フローラの検査結果が出るまでの約1か月の間に、ユーザーの興味・関心を継続させることだという。
検査を受けたことを忘れた頃に結果が届くイメージで、その間に、お客さまの関心を維持し、いかに購買意欲を高めてもらうかが難しさです。せっかく腸内環境に興味を持って検査を受けていただいているので、その興味を継続的なアクションにつなげられるよう、関連情報の提供やコミュニケーションの強化が求められます。これまでは新規獲得に注力してきましたが、今後はCRMにも本格的に取り組み、顧客との長期的な関係構築に力を入れていく方針です。(金子氏)

(画像提供:カルビー)
現状は、管理栄養士と組んで「腸内の菌の役割」や「腸内フローラ検査でわかること」、「腸内環境に良い食生活」といったコンテンツを作成し、メルマガとして配信しています。「ボディグラノーラ」は一般食品であり、「マーケティングにおける伝え方」には細心の注意が求められます。この点は難易度が高いと感じますが、一番の解決策はユーザーの声に耳を傾け、ニーズに応えるサービスを展開することだろうと考えています。(金子氏)
2024年4月からは、より本格的な食事のアドバイスを求める人に向けた有料の「オンライン食事相談」も開始した。30分(3278円)の「ZOOM相談プラン」と550円で最大3往復まで可能な「LINE相談プラン」があり、医師監修のもと、管理栄養士から回答を得られる。

間違いなくニーズはあるという手応えはあり、腸内フローラ検査を経て「自分に合った食生活をどう実践するか」という具体的なアクションを求めるお客さまの声が増えています。顧客理解を深めたり、継続購入を後押ししたりする観点で、大きな可能性を持つサービス領域だと捉えています。一方でまだ実験段階で、たとえばZoomの場合は時間を15分にして価格を押さえたほうが良いのかなど、最適な体験設計を探っています。(金子氏)
2025年1月からは、腸内環境に着目した商品を展開する5社(味の素AGF、サラヤ、帝人、ホクト、Mizkan)の全13品の取り扱いを開始。「ボディグラノーラ」の会員サイト上で販売しており、約10%のユーザーが併売している実績がある。

現状、グラノーラのベースは1種類のみで、味に飽きてしまうかもしれません。そうしたニーズを満たす目的で、他社が展開するワッフルやコーヒー、スーパー大麦、カレーなど全13品を当社が仕入れて、会員サイト上で販売しています。いずれは30品ほどに拡大できればと考えています。(金子氏)
取得データを今後の商品開発に生かす構想も
「ボディグラノーラ」は、2028年4月までに述べ10万人の利用をめざしている。現在は3万人を超えており、順調に推移している状況だ。
次の商品展開として、グラノーラの種類を増やすことも検討している。糖質を抑えたものやタンパク質を増やしたものなど、健康課題を持つ人のニーズに沿う商品を検討したいという。また、「ボディグラノーラ」を通して得られたユーザーの声を、商品開発やサービス拡充に生かしている。
カルビーでは、新規事業の部署においてスタートアップや大学などとのつながりがあり、そういった関係性と取得した健康データを活用して、新商品の開発に取り組んでいます。(金子氏)

日本食糧新聞によると、2024年のシリアル市場は金額・数量ベースともに好調に推移。特にグラノーラは、売り上げ・数量共に10%台の伸長で、市場全体をけん引した。カルビー内でも、「フルグラ」の売上高は順調に伸びているという。グラノーラの需要増に加え、「腸活ブーム」の波が本格的に到来すれば、「ボディグラノーラ」の注目度もより高まりそうだ。